ホルケウ~暗く甘い秘密~
8月30日、期末テストが始まった。
日々の予習復習を欠かしていないりこは、さしたる迷いもなくシャーペンを動かし続ける。
だが、4限目の音楽の記述で、どうしても途中までしか思い出せないところにぶち当たり、約1分以上手を止めた。
(盲点だったわ……こんな詳しいところまで出るなんて。次はやまを張らずに、細かいところも覚えよう)
諦めて次の問題に行こうとした時、教室のドアが控えめにノックされた。
クラスメートの大半の視線が、一斉にドアに向けられる。
「大和田先生、ちょっといいですか?」
顔を出したのは山崎だった。
試験監督を務めていた大和田(りこはこの時初めて名前を知った)は、あまり驚きを見せずに教室を出ていった。
そしてしばらくしてから、大和田は教室に戻るなり後ろの席にいる誰かを手招きした。
「海間里美(うみまさとみ)、至急職員室へ」
手短にそう告げると、海間と呼ばれたクラスメートは一瞬顔を強ばらせ、そして山崎と共に教室を去った。
野次馬根性丸出しの何人かの女子は、面白そうに教室のドアに視線を送っていたが、大和田が大きく咳払いすると同時に、首を引っ込めた。
(野次馬なんて、これまた暇な……と言いたいところだけど、私も気になる。彼女のご家族が、なんらかの事件に巻き込まれた可能性は無限にあるんだし)
いまや、この町では、いつ誰が事件に巻き込まれてもおかしくはない。
りこの予想が当たっていたとわかるのは、これから数時間後のことである。
3時間後、放課後まであと少しの休憩時間中、一人の女子が大声をあげた。
「ちょっとみんな!里美のパパ亡くなったらしいよ!」
その一言に、一気に教室がざわついた。
スマホの画面を近くの女子に見せながら、その女子は教室に情報を発信する。
「ママの同僚が、最期を看取ったって」
「あんたのお母さん、白川病院に勤めているんだっけ?」
「うん。オオカミに噛まれた子の看病をしたこともあるよ。里美のパパも、オオカミに噛まれたみたい。帰りは迎えに来るから、学校から出るなってさ」
女子達の急速に盛り上がる会話を遠巻きに聞きながら、りこはスマホを探し、LINE画面を開いた。
『うちのクラスの海間さんの父親が亡くなったんだけど、これも人狼がやったんだよね?』