ホルケウ~暗く甘い秘密~
返事を待たずにスマホを仕舞おうとしたりこだが、すぐに玲から返事が来た。


『ほぼ間違いなくそうだろうね。海間って、この辺じゃ有名なハンターの一家だよ。人狼達を狩ろうとして、返り討ちにあったんだろう』


山崎が教室に入ってきたため、りこは返事をせずにスマホを仕舞った。

教壇に立つ山崎の視線が、素早く四ヶ所に動いたのを、りこは見ていた。


(病気の相澤君はともかく、人狼によるレイプ被害者が2人に、肉親を失った人が1人。山崎先生も大変だわ……)


ホームルームもどこか気の抜けた調子の山崎に同情しながら、りこはまず何から玲と話し合うか、頭の中で計画を練った。

さっさと帰宅しようと教室を出たりこだが、スカートの中でスマホが震えたのに気づき、教室を出て一瞬立ち止まる。

玲から電話がかかってきた。

森下も石田も近くにいないことを確認してから、りこは足早に玄関に向かった。


「もしもし?どうしたの?」


通話ボタンを押し、なんとなく声を小さくしてりこは尋ねる。


『りこさん、今夜少し話せる?』


その声の硬さから、りこは察した。
おそらく玲のほうも、新たな事件について話し合いたいと思ったのであろう。


「いいよ。何時から?」

『8時にりこさんの家に行く』

「わかった」


このまま電話を切るのはなんだか素っ気ない気がして、りこはなにか良い言葉はないか探したが、見つからなかった。


「……じゃあ、また後で」


結局、出てきた一言はこれだった。

自分の語彙力の乏しさに凹みながら、電話を切る。


(私って、こんな口下手だったっけ……?しかもあの声のトーン!低いし暗いし、もっとこう、可愛げのある一言が出せないかな……)


そして、はたと今さら気づいたことに、一人戦慄を覚える。


(っていうか……私、玲の秘密は知っていても、それ以外のことまったく知らないじゃない……。知ってることといえば、料理が苦手なこと、けっこうずぼらな性格だってことだけ)


知りたくないわけではない。
それどころか、もっと触れ合う機会が欲しいくらいだ。

しかし、いざというときに及び腰になるのは、りこ自身が痛感していた。

さらに、10代での2歳差は大きい。

それも、女のほうが上だと、意識させるにも通常よりさらに苦労する、と友人が言っていたことを思いだし、りこの気分はさらに沈んだ。
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