ホルケウ~暗く甘い秘密~
言葉に詰まる里美と亮平にかまわず、信弘は一気に話しきった。


「青年の死体はいくつかおかしなところがあった。虹彩は金色に輝き、口元からは鋭い犬歯がのぞき、爪は鋼のごとく硬く鋭利だった。まるでオオカミのような身体的特徴を持つその青年の死体は、閉鎖された村社会では化け物として扱われた。実際にあれは人間じゃなかったろうが…………」


そして信弘は当時の新聞に目を落とし、話を締めくくった。


「3日後、札幌から来た男は、自身の勤める新聞社でこれを記事にし、北海道新聞に載せた。青年の死体は札幌に運ばれ、北海道在住の著名な科学者たちが解剖し、その特異な眼球や爪を研究したらしい。わしらはあの死体を人狼と呼んだ。また、本気でそう思っておった。あれから65年、人狼は再び現れた。わしはそう確信しておる」


古い木箱の中から、信弘は色褪せた缶を取り出した。
薄っぺらいその缶には、何か入っているのかカラカラと音がする。


缶の蓋をこじ開け、信弘は目の前に座る孫二人に差し出した。


「わしが人狼と戦って死なずに済んだのは、これのおかげじゃろう」


黒とも茶色ともとれない色の塗料にまみれた弾丸が6つ、缶の中に転がっている。

ハンターとしての好奇心が刺激された里美は、思わず身を乗り出した。


「初めて見る、こんな弾」

「この家に一番多くある銃の弾だよ」

「まさか、ブローニング・オート5の弾?」


瞠目する里美に、信弘は深くうなずいた。


「当時は高級品だったこの銃は、ある人に贈られたものじゃ。わしは現役を退くまで、ずっとブローニング・オート5で狩りをしていた。この弾は……死んだ仲間の弟から受け継いだ」


缶の蓋を閉じ、信弘は新聞と共に箱にしまい、ソファーの下へ戻した。


「彼は、今度の獲物はただの弾じゃ仕留められないと判断し、新しい薬莢の開発に取りかかった。そして弾が完成したその夜に、兄が死体となって戻ってきたのだ。わしはそいつに復讐を誓った。必ずあの弾で獲物を仕留めると誓い、また遂行した」

「じいちゃん……」


亮平の落ち着き払った声が、昔の記憶に浸りかけていた信弘を現実に戻した。


「あの薬莢、なにが塗ってあったの?」

「猛毒じゃ。調合法は知らんが、どんな獣も即死する」
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