ホルケウ~暗く甘い秘密~
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「シフラ、見えた?」


期待を込めてそう尋ねたのは、黒髪に金色の瞳の、痩せ細った少年だった。

ジャージのハーフパンツと、素足にスニーカーを履いただけの身なりのその少年は、わくわくと返事を待っている。


「お、見えた見えた。んだよ、まだガキじゃねえか」


チッと軽く舌打ちし、少年のほうを振り返ったのは、細身な体躯の青年。

ほんのりと青みがかった黒髪は夜の空気に溶け込んでいるが、柘榴を思わせる深紅の瞳が闇夜に輝く。

柘榴の瞳は、徐々に金色に変わっていった。


「いーいなー、シフラは。俺まだ透視能力使えない」

「コントロールが難しいぞ。エネルギーも消耗するし。それより、面倒くさいが疎かに出来ない雑用が出来た」


雑用がなんなのか、察しがついた少年はにっこりと笑った。


「俺たちの姿を見た女の子を始末するんだよね!」

「そうだ。人狼を二度も目撃しているのに未だに死んでないことに驚きだが……なるほどな。あの一匹狼が必死で守っているようだ」


シフラは愉しげに喉を鳴らして笑った。

先ほど仲間の眼を通して、自分たちの存在を知った少女の顔を見た。

整った顔立ちだが、纏う雰囲気がどこか地味である。

しかしその肢体は、服の上からでもわかるほど肉感的で、あらゆる意味でそそるものだった。


「犯すもよし。食べるもよし。ただ殺すのはもったいないな、あの女。ヒカル、お前にくれてやる。ただし1日楽しんだら殺せ」

「りょーかい!族長」

「獲物の周辺には、呉原玲がいる。半人狼だが、あいつの戦闘能力はなかなかだ。一筋縄にはいかないだろうから、ちゃんと作戦練ってから狩りに行け」

「はーい。呉原玲は殺してもいいの?」

「殺す必要があると判断したら、殺してもいいぞ。あいつどうせ俺には従わないし」


投げやりに言い捨てると、シフラは手早く身に纏っていた衣服を脱ぎ捨てた。

そして大きく一歩踏み出した瞬間、柳のようにしなやかなその体は、ダークブルーの毛並みの狼へと変わった。

颯爽と森の奥へ消えていったシフラを見送り、ヒカルと呼ばれた少年はぼやく。


「春山りこ、だっけ?どうにかして始末しないとなー。いつ狩りをはじめようかなー」
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