ホルケウ~暗く甘い秘密~
そう納得しようとしたりこだが、教室内にいる女子を見渡し、不覚にも森下の言葉に頷きかけてしまった。
(あっちゃぁー……こ、これは……うん……)
決して美人とは言えないりこが、絶句した。
普通、たいていの場合は、クラスに1人は可愛いもしくは美人と言える女子がいるものだ。
運が良ければ、それが複数いたり、ギャルゲーよろしくタイプの違う様々な美少女がいたりするものである。
少なくとも、学校生活について、いや、クラスメートの女子について、りこはそのように考えていた。
しかし、このクラスは違う。
(あの子は髪型が似合ってないし、あの子はメイク下手……。肌の手入れすらしてない子もいるわ……)
なんだか、この言葉だけを見ると、転校早々クラスメートの粗探しをしている嫌な女みたいだが、悲しいかなそれらは反駁の余地を与えぬ事実である。
通りで、森下が自分を見て目を輝かせるはずだ。
「春山、放課後暇?学校とか街、案内したいんだけど」
森下の後ろからヒョコッと顔を出したのは、日に焼けた逞しい体つき、精悍な顔立ちの少年だ。
癖のある黒髪が特徴的である。
(どなたですか……)
狭い街だ。小学校の頃に顔見知りであれば、すぐにわかるのだが、彼が誰なのかはまったく見当がつかない。
もしくは、玲のようにりこが忘れてしまっているだけなのかもしれないが。
「ちょっと隼人、あんた今日部活でしょ。マネージャーの前で堂々と部活サボろうとするな!」
隼人と呼ばれた、ボディービルダーのごとき肉体の彼は、小柄な女子に鳩尾を殴られ、床に崩れ落ちた。
透けるように白い肌、焦げ茶色のロングヘアーの彼女は、りこのほうを振り向き、
「あたし、鹿野まな。男バスのマネージャーやってんの」
唐突な自己紹介。あからさまに狼狽えはしないが、りこは少し言葉に詰まった。
「そうなんだ。よろしく、鹿野さん」
「春山さんさー、男バスのマネージャーやんない?森下あんたのこと気に入ったみたいだし」
どこか冷めた目で自分を真っ直ぐみつめてくる鹿野に、りこは少しばかり不快になった。
部活の勧誘にしては、ずいぶん愛想が悪い。