ホルケウ~暗く甘い秘密~
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「そろそろ、情報が漏れ始める頃だ」


ノートを見返しながら、玲が低く囁く。

その声の色気に若干くらつきながらも、りこは平静を装って尋ねた。


「っていうと?」

「ボロディン族は、っていうかシフラは、自分たちの存在を完全に隠そうとはしていない。噂が立つ程度の情報は残している」

「そういえば、行方不明の有原君……彼が化け物になったとかって噂が、最近流れはじめて……。だけど確かな情報を握ってそうな人は間違いなく死んでる。うまいこと恐怖を煽ってるわね」

「その有原なんだけど、実は彼の居場所知ってる」


突然そう切り出した玲に、りこは瞠目した。


「聞いてないわよそれ」

「すべて落ち着くまで言わないでおきたかったんだ。ごめん」


申し訳なさげに視線を泳がせる玲を見て、りこは短くため息をついた。


(まあ、玲が慎重になるのも仕方ないか。事が事なだけに信用できる人はごくわずかだし、その中で動ける人はさらに限られるし)


「教えて。彼は今どうしてるの?」

「スミス神父の家で匿われている。有原が病院から脱走したあの日、俺は現場をうろつく警察官たちを見て、なにがあったのか察した。パニックを起こして暴走しているなら、自宅に戻るよりも町を出ようとするだろう」

「高速を見張って捕まえたの?」

「うん。釧路方面の一番大きい高速の近くをうろついてたら、ビンゴだったよ。動物病院の裏の森で見つけた」


動物病院、と聞いてりこは瞬時に脳内で地図を描いた。

高速沿いにあるそこは、確かに背後には森が広がっているが、そこまで人里から離れているわけではなく、時間はかかっても徒歩で行ける距離にある。


「有原は一度しか噛まれなかったらしい。完全な化け物にはなっていないことを教えて、俺はスミス神父を呼んだ。車で有原を回収してもらって、今に至る。スミス神父も人狼について知識がある人だから、彼のことは任せてあるってわけ」

「なるほどね。スミス神父なら大丈夫そう。そういえば、強姦被害者の女性たちが供述を始めたんだけど、ある噂がセットでついてきたわ」

「どんな噂?」

「彼女たちは頭がおかしくなったって」


それを聞いた瞬間、玲の瞳が好奇心に光ったのを、りこは見逃さなかった。

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