ホルケウ~暗く甘い秘密~
「加害者は金色の瞳、鋭い犬歯、黒髪の若い男性。この供述だけ聞いたら、アメリカの三流ホラー映画のコスプレでもしてるんじゃないか、って反応が来るわよね。おまけに、抵抗力を奪う唾液。あまりに突飛な供述だから、麻薬を打たれたおそれがあると主張する輩もいるとかいないとか」
「誰か一人、精神的に限界がきて警察にしゃべった人がいると見た。おそらくそれを皮切りに、今まで沈黙を貫いていた女性たちは供述を始めたんだろう」
ふと、りこの頭に疑問が浮かんだ。
今までは人狼の登場で頭がいっぱいだったが、肝心なことをまだ知らない。
「ねえ玲。ボロディン族はなにをしたいの?」
玲は即答を避けた。
そしてゆっくりと言葉を選び、答えた。
「はっきりしたことはまだわからないけど……シフラの裏に、まだ誰かいると思う」
「その論拠は?」
「俺が知る限り、シフラは破壊衝動を原動力にして生きている人狼だ。一族の目的なんかを自分から考えるような性格じゃない。シフラに協力し、何かを企んでいるやつがいるのだけは確かだ」
でも、それだけじゃ情報が少ない。
その一言を玲は咄嗟に呑み込んだ。
そして玲が何を言わなかったのか、りこはだいたい予想がついていた。
「後手後手に回ってるのが悔しいわね」
「情報収集、出来なくはないんだよ」
人狼の生態系をまとめたノートの、ちょうど真ん中のページを開き、玲は言った。
「超能力の共有。人狼の血が入っている者は、同じく人狼の血が入っている者の眼を通して、モノを見ることが出来る。ここでは透視能力と呼ばれている」
「うまい話には裏があるもの。簡単には使えないんじゃない?それ」
「その通り。ここを読んでみて」
・透視能力の使用条件
視界にアクセスしたい相手の顔を思い浮かべ、強くイメージする。
・成功条件
能力を使用した人狼の戦闘能力に比例する。
透視能力は膨大なエネルギーと集中力を必要とするため、力の弱い人狼が無理をして使用すると死ぬ危険性がある。
・失敗した場合
アクセスされた人狼は激しい頭痛に襲われる。しかしその頭痛が止まった瞬間、能力を使用した人狼の視界を乗っ取る隙が出来る。このままだと逆に自分の視界が乗っ取られるため、能力を使用した人狼は速やかに心を閉じる必要がある。
「成功した場合は?」
りこはノートを閉じた。
透視能力についての記述は、完璧に暗記した。