ホルケウ~暗く甘い秘密~
「成功したら、好きなだけその人狼の見ているものを見れる。それも、相手に気づかれずに」


ニヤッといたずらっ子のように笑った玲だが、徐々にその笑顔は消えていった。


「噂をすれば、だ。誰かが俺の視界を乗っ取ろうとしている」


無表情になり、声は平淡であるものの、じわじわと玲の額から汗が流れはじめた。

りこは固唾を呑みながら、玲の汗をハンカチで拭き取った。


「……下手だな、こいつ」


ボソッと呟き、玲は虚空を睨んだ。

目には見えない圧力の壁を肌で感じ、りこは知らないうちに息を止めていた。

玲の瞳はいつの間にか黄金色に変わっていた。

そして一瞬強く目をつむり、再び開いた時にはその両目は、鮮やかな柘榴色となっていた。

ゾワリ、と鳥肌が立つ。

深く濃い赤の双眸は、焦点が定まらずにフラフラと揺蕩い、あらぬ方向へ流れる。

まるで霊能力者がトランス状態に入ったかのような様子だが、りこはじっとしていた。

ぐらついていた肩がピタリと止まり、玲の瞳の色は瞬く間に元のハニーブラウンに戻った。


「りこさん、見ての通り、透視能力に不慣れな誰かが俺の視界に入り込もうとして、逆に自分の情報をほぼ全て明かしてしまった。それで、俺が見たものなんだけど……」


これ以上ないくらいに強い眼差しをりこに向け、玲は言った。


「りこさんの命が危ない」


(……命が、危ない?)


なにを言われたのか、すぐには頭が追いつかなかったが、言葉がちゃんと脳に届いた時には、りこはある意味納得していた。


「誰かが私を殺そうとしているの?」

「ボロディン族がりこさんを狙っている。まあ、人間の身でありながら色んなことを知りすぎちゃったからな…」

「悪目立ちしていた?」


思わず眉をひそめるりこに、玲は苦笑いした。


「多分ね。でも、りこさんがただの人間じゃないってバレるのは避けないと。どんな女の子よりも甘い魅惑的な肌は、正直最高の餌だからね


(どんな女の子よりも?それってどういう……)


思考がそこで止まっているりこには気づくことなく、玲は前髪を掻きあげながらぼやく。


「まあ、そろそろ狙われるかなって思ってはいたけど……しかしなー、どうしよ。その場しのぎでどうにかなったって、長期的に見たらあんま意味ないよなー……」

< 92 / 191 >

この作品をシェア

pagetop