ホルケウ~暗く甘い秘密~
ブツブツと何か呟き続けている玲を放置し、りこはりこで頭の中で盛大に一人言を漏らしていた。


(なに、なんなの他の女の子って……!一体どれくらいの女の子を食べてきたのよ!)


これは、脳内で処理しきれる案件ではない。
出来ることなら、大声で叫びながらクッションでも殴りたいところだ。

そう感情が訴えかけてくると、急にこの場に玲がいるのが疎ましくなってきた。

早く帰らないかな、などと自分が殺される危機に晒されているのをそっちのけで、りこは自分勝手にもそう念じていた。


「うん。応急措置しかないな、これは」


ようやく結論が出たのか、妙にすっきりとした顔で玲は爆弾を落とした。



「りこさん、今日から俺の彼女ね」



頭の中が真っ白になるとは、まさにこのことかと、一人で得心していたりこだが、いつまでも現実から逃げているわけにはいかなかった。

なんとも言えない、生ぬるいニヤニヤ顔で、りこはかぶりを振った。


「冗談でもきついって、玲」

「酷いなー。そんな不細工な顔になるくらい、俺と付き合うのが嫌?」

「いや待って。今のあんたの発言のほうがよっぽど酷いから」

「大丈夫、りこさんは気を抜かなければ可愛いよ。だから」


気を抜かなければは余計だ、と突っ込もうとしたりこだが、続いて発せられた玲の言葉に、声を失った。


「仮面夫婦ならぬ、仮面カップルをしよう。どう対策を立てるにしても、当面は俺がりこさんを守らなきゃでしょ?表立ってりこさんを守るためにも、一時的で良いから彼氏の称号をちょうだい」


心が、芯からゆっくりと冷えていった。

体もそれに比例して、爪先や指先に冷えが広がっていく。


(…………なんだ、そういうことね)


一瞬でも期待を寄せた自分は、なんと愚かなのだろう。

なにも行動していないのに、玲に好かれるはずがない。

それでも甘い言葉を聞いたら、都合の良いことを考えてしまうバカさ加減に、りこは自己嫌悪した。


「あーもー、誤解を招くような言い方はやめなさいッ!ちょっとビビったでしょ!」


わざとらしい説教口調。

大人ぶった余裕のある笑顔。


「そういうことなら、喜んで付き合うわ。ちゃんと私を守ってよ?」


なんでもない素振り。

大丈夫、取り乱したりなんかしない。

< 93 / 191 >

この作品をシェア

pagetop