ホルケウ~暗く甘い秘密~
3
「春山りこの前に、まずはこっちを処理しなきゃかー」
やれやれ、と頭を振るのは、ボロディン族の長シフラにりこの殺害を命じられた人狼、ヒカルだった。
微笑みをたたえてはいるが、凍てつくような冷たい視線を下に落とす。
地面に這いつくばっているのは、一見ホームレスのような身なりの子供だった。
年の頃は12前後、ヒカルより少し幼いくらいである。
「ねえ、なんであんな勝手なことしたのさ」
子供らしく、拗ねるような怒りかただが、それとは裏腹にヒカルの行動には容赦がなかった。
ガシッと鈍い音をたてて、ヒカルは子供の頭を踏んだ。
地面に顔を擦り付ける子供を、感情のこもってないヒカルの瞳がとらえる。
「ねえ、どうしてさ?」
だんだんと不機嫌さを露にしていく一方で、グリグリと顔を土に押しつけていく。
踵でこめかみを踏めば、ヒカルに足蹴にされている子供はか細い悲鳴をあげ、のたうちまわろうとした。
「ああ、これじゃ話すに話せないか」
そうぼやき、足を退かしてから、ヒカルはもう一度言った。
「で、なんであんなことしたの?」
「それは……ヒカルさんが、呉原玲の情報、欲しがってたから……」
たどたどしく言葉を紡ぎだしたその子供は、怯えているのを隠そうと必死だった。
しかし肩の震えや上ずった声からは、ヒカルに対する恐怖が漏れている。
「あー、なるほどね。俺に折檻されたくないから、役に立つ情報でも持ってきて機嫌取ろうとしたってわけね」
言葉を選ばないヒカルの発言は的を射ていたようで、子供の顔は色をなくしていた。
「成功していたら、折檻はやめていたかもね。でも失敗したでしょ?」
ニヤニヤ笑いが、ヒカルの顔に広がっていく。
「俺でさえ使いこなせない透視能力に手を出すなんて、そんなに折檻が嫌だったんだ?あーあ、俺はユキのことを想ってあえて厳しい教育を施していただけなのに……」
残念だなあ、と呟くヒカルの声を聞いて、ユキと呼ばれたその子供は自分の運命を悟った。
来るべき最期を迎える準備を整えるために、目を閉じたユキだが、ヒカルは待たなかった。
ゴキィッ、と骨の折れる鈍い音が、鬱蒼とした暗い森の中で響く。
肉を狙うカラスたちがひしめく小川の方向に、ヒカルは自分の手でへし折ったその首を放り投げた。
カラスたちがユキの首に集まりはじめたのを見て、ヒカルは鼻で笑った。