ホルケウ~暗く甘い秘密~
「どうしたのよ、こんな早い時間に」
いつもよりも20分近く早い訪問に戸惑うりこに、玲は笑顔で答えた。
「忘れたの?俺たち昨日、彼氏彼女の関係になったじゃん」
「偽物のね。で、それが早起きとどう関係があるっていうのよ」
「りこさんを学校まで送ろうと思って」
「…………は?」
まるで信じられないものを見たかのようなりこの反応に、玲は残念そうなため息をついた。
「ちょっとちょっと、朝弱い俺の努力を褒め称えてよ。そんな嫌そうな顔しないでさ」
「だって嫌だもん」
「え、なんで?」
まさか断られるとは思っていなかったのか、玲は全力で驚いていた。
「ねえ、なんで?」
「嫌よ!こんな派手顔に送られたら、変な注目浴びるの目に見えているもの!」
りこが何を嫌がっているのか察しがついた玲はにっこりと笑い、言った。
「女子ってめんどくさいもんね。特に男が絡んだら」
女心に聡い玲のことだ。
理解してもらえたのだ、と一瞬喜んだりこだが……。
「でも、りこさん命を狙われてるんだよ?一時期な嫌がらせの回避と、自分の命、どっちが大事?」
「…………え?」
喜びは奈落の底に落ちていった。
「自分の命だよね?もちろん」
「そ、そうだけど」
それはそれ、これはこれだと言おうとするも、ニコニコと笑う玲の妙な迫力に押され、りこはいつものような強い声が出なかった。
「じゃあ、学校行こう。はいさっさとバッグ持ってきて」
あれよあれよという間にバッグを取りに戻され、家の鍵をかけさせられ、自転車に乗せられ、腰に手を誘導された頃に、りこは現実に戻った。
「ってダメだってば!玲、私は大丈夫だから!いくらシフラってやつがヤバくても、さすがに街中に出たりしないでしょ?出ようとしても止めるやついるでしょ?とにかく降ろして!」
思いつくままにポンポンと言葉を吐き出し、玲から離れようとするりこだが、玲はさらに強くりこの手首を掴み、引き寄せる。
「ダメ。心配だから送る」
普段よりもキッパリとした口調から、りこは玲が折れることはないと悟り、諦めた。
「ちゃんと掴んで。出すよ」
細身ではあるが筋肉に覆われた硬い玲の腰に腕を絡ませ、りこはさっきまで嫌だと思っていた気持ちを忘れていった。