戦乙女と紅(ヴァルキリーとくれない)
ざわめいたのは小国軍だけではない。

敵である大国軍でさえも、俺の行動には驚いているようだった。

馬にもまたがらず、ただゆっくりと、敵の軍勢に向かって歩いていく。

まるで散歩をするかのような足取りで。

七万の軍勢相手に、無防備と映る行動だろう。

しかし、これも既に俺の布石の一つだった。

「止まれ、赤い騎士!!」

大国軍の騎士の一人…恐らくは今回の軍の指揮官なのだろう。

巨漢の男が叫ぶ。

「貴様、何のつもりか!?まさか戦が始まる前から我が軍に投降という訳でもあるまい」

「無論だ」

俺は涼やかな笑みさえ浮かべて、男を見た。

「俺には戦う準備がある。遠慮せずにかかってきたらどうだ?」

「な…」

耳を疑う言葉だろう。

俺はまだ、腰に帯びた二刀の剣すら抜いていない。

それで戦う準備がある、などと言われても、信用できる筈がない。

大国軍の騎士達は、俺の意図が読めずに動けないでいる。

「どうした」

俺は不敵に笑った。

「剣を抜かない程度ではまだ恐ろしいか?何なら剣は地面に置いてやろうか?大国の騎士どもは、丸腰の相手でなければ戦えぬ、随分と臆病者なのだな…」

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