戦乙女と紅(ヴァルキリーとくれない)
私の言葉に、紅は頷く事もせず、笑みを浮かべる事もしなかった。

「…違うのか?」

「だからお前は子供だというのだ」

紅は視線を合わせぬまま呟いた。

「…ある騎士団に所属していた男は、仲間の危機を救う為にただ一人囮役を引き受け、二千の大軍に立ち向かったそうだ。その隙に陣を立て直してくれ、と…騎士団は男が二千の兵を引きつけている間に…撤退した。男を置き去りにしてな」

「な…!そのような非道な!!」

「非道ではない。一を捨てて百が助かるのならば、正しい判断だ。もっとも」

嘲笑のような紅の笑み。

「その騎士団もまた、撤退の途中で伏兵の襲撃を受け、全滅したそうだがな」

「……」

もしや紅…それは自分の過去の事を言っているのか?

私は紅の変化を見逃すまいと、じっと横顔を見つめる。

だが。

「そんなに見つめられると、流石の俺も照れるな。どうした、昼間の俺の戦いぶりで惚れたか?」

「ば、馬鹿を言え!!」

まんまとはぐらかされた事を感じつつも、私は赤面して視線をそらした。

そんな私に。

「何にしても」

何の感情もこもってない声で紅は言った。

「戦は勝たねばならぬ。また、勝つ方につかねばならぬ。敗北は何もない。荒み、裏切り、恨み…そして死ぬだけだ」

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