戦乙女と紅(ヴァルキリーとくれない)
「いかんな、熱気と酒にやられたらしい」

苦笑いを浮かべ、俺はテラスに出た。

外の空気がひんやりとして心地よく、大きく深呼吸してみる。

…今宵も、空には美しい月。

昔は戦の後に、こうして空に浮かぶ月を見た。

斬り合いの後でざわつく心を、敗北の後で苛立つ己を、月明かりが鎮めてくれた。

「…今宵はどうだ?月は赤くないか?」

声に振り向くと、乙女もテラスに出てきていた。

「…姫君が宴の席から離れてはなるまい」

「もう関係あるまい。私がいなくても宴は盛り上がる。宴もたけなわ、という奴だ」

そう言って乙女はクスッと笑った。

…先程の話に戻る。

「月は赤くない。むしろ蒼いかな…」

俺は月を見上げた。

「そうか…ならば明日は一息つけるかな…」

乙女も月を見上げる。

…この女も、戦場以外の場所では普通の姫君。

いや、ただの年頃の娘だ。

邂逅の時には一太刀も浴びせられなかったが、今なら軽く押すだけで尻餅をついてしまいそうなほど、華奢で小柄な娘。

「…このような時に下衆な話だが」

俺は乙女を見た。

「報酬の話をしたい」

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