戦乙女と紅(ヴァルキリーとくれない)
砦を出て、軍を率いる。

…地平線など見えなかった。

そこに見えるのは、大国軍の兵士のまとう銀色の鎧のみ。

…十二万。

言葉にすればたやすいが、目の前にするとこれ程の数なのか。

最早、取り囲まれているなどという生易しいものではない。

我ら以外の人間は全て大国軍なのではないか。

この世に我らの味方など存在せぬのではないか。

それ程の威圧感を感じさせた。

「…乙女」

気後れした私の雰囲気に気づいたのか。

側にいた騎士が不安そうな声を上げる。

…いかん。

何をしているのだ、私は。

私は戦乙女。

この国を救う救国の女戦士。

私が脅えれば、他の兵にもその不安は伝播する。

誰が恐れようと、私は決して恐れてはならない。

「聞け、皆の者!!」

スラリと抜いた大剣を天にかざす。

「幾百万攻めて来ようと、我々は戦乙女の軍だ!!天より遣わされし戦女神ヴァルキリーの軍…いわば聖なる軍だ!人間の軍など、どれだけ集まろうと物の数ではない!!」

私の言葉に、兵達が鼓舞される。

…それは、私自身への鼓舞でもあった。


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