戦乙女と紅(ヴァルキリーとくれない)
空から降ってくる、殺意の雨。

この混戦の中では、かわす事すらできない。

そんな私を。

「乙女!!」

一人の兵士が愛馬から引きずりおろした。

同時に。

「!!!!」

ドスッ!という鈍い音が、兵士の体越しに伝わってくる。

…兵士は身を呈して、私を矢の雨から守ったのだ。

「シ…シュナイダー…」

兵士の名を呼ぶ。

「……」

その兵士…シュナイダーは無言のまま、ただ笑みを浮かべ。

「ぐふっ…」

喀血すると共に息絶えた。

私の体を、死のその瞬間まで庇いながら。

「……」

シュナイダーの手を解き、立ち上がる。

彼だけではない。

矢を全身に浴び、多くの小国の騎士が倒れていた。

小国の騎士だけではなく、大国軍の兵士も多数巻き添えになっていた。

「戦乙女はまだ残っている!!斬れ!!射れ!!どんな手を使ってでも討ち取れ!!」

そんな事を口走る者がいた。

…先の戦の時の、あの大国軍の指揮官だ。

奴が…命じたのか。

友軍の兵を巻き込んでまで矢を射り、シュナイダーや、私の仲間を大勢殺したのか…。

「…シュナイダー…借りるぞ…」

彼の亡骸のそばに落ちていた剣を拾い上げる。

その瞬間。

私には戦女神ではなく、大国の兵士どもをいざなう死神が乗り移ったに違いない。

「貴様ら…誰一人として生かしては帰さぬっ!!!!」


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