戦乙女と紅(ヴァルキリーとくれない)
俺は頭上で槍を回転させる。

「紅の疾風改め、紅の旋風の槍捌き、篤と見よ!!」

一足飛びで大国軍の間合いに飛び込んだ俺は、大振りの槍で軍勢を薙ぎ払う!!

何とか反撃を試みようとした敵兵に対しても、次々と槍の穂先を突き出した。

その突きは、敵からは最早、点にしか見えまい。

それ程の速さの突きが、そして線にしか見えぬ槍の払いが、疲弊しきった大国軍の兵士たちを次々と散らしていく。

「…紅に続け!我が軍の守護神が再び戻ったのだ!!」

甦ったかのように、乙女が叫ぶ。

「加護を得られた以上、この戦はもらったも同然だ!!」

その声に鼓舞され、死に掛けていた小国軍の兵士たちでさえも、それぞれの武器を手に取り、大国軍に立ち向かっていく。

…完全に戦局は小国軍に傾いた。

「ぬ、ぬぅぅ…」

乱戦の中で、指揮官は歯噛みしていた。

十一万。

大国全ての兵力を投入して、まさかたった三万の軍に敗北するとは思いもしていなかったのだろう。

その表情は蒼ざめている。

かくなる上は、とばかりに兵を見捨て、戦場を逃亡しようとするが。

「どこまでも見下げ果てた男だな」

俺はその退路を、槍で阻んだ。

「覚悟しろ。父と母の仇だ」

更には乙女も指揮官に剣を突きつける。

…ここからは、俺の出る幕ではあるまい。

俺は乙女に任せて背を向ける。

そして。








「ぎゃあああああああああっ!!」

指揮官の断末魔の声が、背後から聞こえた。


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