十五晩瞳の奇跡
あまりの静けさに人気も感じられないけれど月との距離を近く感じる程月光が眩しかった。


「千華ちゃん」

彼はぴょんぴょん跳ねながら、素足で軽やかに屋根の上を進んでいく。


「取り合えず、名前教えて?千華ちゃ…」

はっとしたように、口を嗣ぐんだ。

「何で私の名前を…?大体こんな屋根歩きにくいんですけど…ぅわっ!!」


足を滑らせるが、身体が宙に浮き、落下を免れる。


そうだ、魔法をかけたとか言ってたな。あの人。


「先ずは、封印解いてくれてありがとう。また自由に空飛べるって最高だな。」

パフォーマンスを終えた大道芸人のように、頭をペコリと下げる。


「封印?」


彼は足元も見ずに身体をこちらに向けながら、後ろに下がる素振りを見せる。


「そう。さっき解いてくれたでしょ?兎の人形に見覚えない?」


私は再び屋根に登り、彼の後を追う。


「あなたが、あの兎の置物だったってこと…ですか?」


「おっ、いけねっ!一分過ぎちゃった!」
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