紫陽花と君の笑顔
舞桜 -MAO-

紫陽花の光



 ――舞桜が病床に臥して、何週間かが経った。


 病室の窓からは、たくさんの紫陽花が覗いている。


 昔、舞桜がまだ元気だった頃話したことがあったことを思い出す。彼女の好きな花は、その咲き乱れる紫陽花だった。





 「おはよう、舞桜」





 病室をノックして入る。

 まだ朝は早かったが、舞桜もベッドの背を起こし、外を眺めていた。





 「おはよう、早いね」





 「まぁな。調子はどうだ?」





 点滴を繋げた腕を胸に当て、舞桜は静かに微笑む。


 大丈夫――そう呟いて、彼女はまた視線を外に向けた。


 さっきから見ているのは、きっと病室の下に咲いている紫陽花だろう。


 目を細めている舞桜は、そのまま光に溶け込んでしまいそうなほど、弱々しかった。


 昔の元気で明るい、お喋りが大好きな舞桜は、もう、どこにも居ない。


< 1 / 24 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop