紫陽花と君の笑顔
「――玲太。早いのね」
「母さん……」
後ろから聞こえた声に振り返れば、母さんの泣き腫らしたような瞳と目が合う。
俯いて頷いた俺の背中にそっと手を触れる母さん。
今まで、俺たちの部屋まで来ることなんてほとんど無かったのに、珍しく母さんは部屋に入って立ち尽くす。
気を遣ってなにも喋らないのだろうけど、俺にはそれが逆に辛かった。
長い沈黙は、舞桜の病気を医師から告げられた時の事を思い出させる。
それがあまりに辛くて、俺は少し明るく振舞った。
「舞桜の荷物、片してしまおうかな」
けれど、見つかった言葉には何か重みがあって、更に空しさを伴わせる。
それはシャボン玉のように少し浮遊した後、弾けて消えた。