紫陽花と君の笑顔
舞桜の声のトーンが、機械越しにでも分かるほど下がった。
俺は、せめて零れ落ちそうな涙が見られないように、目一杯俯く。
ごめんね。
もっと生きたかったけど、
私には、そんな力はなかったみたい。
だから玲くん。
お願いがあるの。
私の分まで、精一杯生きて。
私が見たかったもの、
触れたかったもの、
食べたかったもの、
行きたかったところ、
きっと、玲くんなら分かると思います。
だから、その全部を経験して、
しわくちゃのおじいちゃんになったら、
私を迎えに来てください。
大好き。ううん、
愛してるよ、玲太――
この先何があっても、
私は遠いところから、
家族と一緒にあなたを見守っています。
またね。
通話が途切れた頃には、俺は立っていることすら困難だった。
幸い、人通りの少ないこの道で通行人とすれ違うことはなかった。