紫陽花と君の笑顔
そのときだった。
『ありがとう』
微かだったが、紛れもなく舞桜の声が頭上に舞い降りた。
驚いて顔を上げても、姿は見えない。
しかし、そこに彼女が居るのはすぐに分かった。
「舞桜、誕生日、おめでとう」
詰まりそうになる言葉を必死に紡いで、空に届ける。
目の前にいる彼女は嬉しそうにふふ、と笑った。
『またね』
舞桜の気配は、しゃがんだままの俺を抱擁するようにふわりと動いたかと思うと、そのまま風の一部となって消えた。
「ああ……またな、舞桜」
俺は立ち上がると、青空にそう零して霊園をあとにした。