紫陽花と君の笑顔
舞桜が、去年の冬あたりから体調を崩した。
それが、始まりだった。
高熱が続き、咳や嘔吐、体の節々の痛みを訴え始め、これは危険だと感じた俺たちは、近くの総合病院に駆け込んだ。
でも、もう遅かった。
いや、この病気は異例だと宣告されたのだから、早いも遅いもなかったのかも知れないけれど。
医師からの宣告、長い沈黙。
あの時の緊迫感は、今でもよく覚えている。
舞桜は、次の日から入院生活を送り始めた。
自宅療養も俺は考えたのだが、舞桜本人の希望により、病院での治療を始めることになった。
治療といっても、表立った治療法は発表されていないのだから、舞桜の体を治すことは出来ない。
進行を遅らせることも、もちろん不可能だった。
舞桜の命がいつ消えるか、それすらも分からなかった。
余命数ヶ月、舞桜の未来は、すでにないと言ってもおかしくはなかった。
彼女自身、辛いと思う。
苦しい病気に苦悩し、耐えて生きているのだから。
でも、舞桜は諦めなかった。
必死に、生きて、生きて、生き延びている。
時には調子がいい時もあるようだが、それも長時間は続かない。
すぐに呼吸が荒くなり、苦痛を訴え始める。
それが分かっていながらも、舞桜は毎日欠かさず訪れる俺を明るく迎えてくれる。
無理をしなくてもいい、何度もそう言い聞かせたが、彼女は首を横に振るだけ。
あなたに弱みを見せるのは、私が死ぬ時だけだよ。
そう言って、静かに微笑んだ。