紫陽花と君の笑顔
別れ
そして、それから余命を打破し数ヵ月後、彼女の好きな花が咲き乱れた。
雨露に濡れ、輝きを放つ紫陽花。
凛と咲き続けるその紫陽花を見ていると、昔の舞桜を見ているようだった。
舞桜もそれに気が付いているのか、目を細めて懐かしそうに笑う。
でもその笑顔には、僅かずつ体を侵食してゆく病の影が、消えることなく付きまとっていた。
舞桜も自覚しているという。
いつ死ぬのかなって考えてしまう自分が、どこかに居るの。
入院から数日後のある日、震える肩を抱き締めた俺に、舞桜は泣きながら告げた。
声を殺して、出来るだけ俺に重荷を作らせないようにと気遣ってくれる彼女を救えない無力さに、俺は歯を食いしばった。
どうして舞桜なんだ……!
何度思っても、何度問いかけても答えはない。
舞桜の涙は、紫陽花に降る雨露のように弾け、消えていった。
「おはよう、舞桜」
「毎日来なくていいって言ったのに……」
いつしかこれが、お決まりの台詞になった。
時々、本当に嬉しそうな表情を見せるが、それも最近はほとんど見なくなった。
そして、高校での出来事、部活のことなど、他愛もない話をし、病室を後にするのが、俺の日課となっていた。
認めたくはない、舞桜が、いつか居なくなるなんてこと――
けど、俺たちは認めて、真正面から戦うって約束したんだ。
……けれど、別れの日は、あっという間に訪れた。