また俺が助けるから。
「おーい、桜子も来ないかー?」



波打ち際で、お父さんが私を呼ぶ。



……知ってるくせに。私が泳げないこと。



思わず、小さく舌打ちをしてしまう。



「来たら絶対楽しいよ!おいで」



そんなイライラしている私にかまわず、お母さんまで手を振ってくる。



「……100%嘘」



『来たら絶対楽しい』



この言葉に釣られて、私は何度波の中へ入っていったか。



そして、入っていった数だけ辛い思いをして帰ってくるんだ。



誘ったお母さんも、私が溺れかけたらすぐ心配性モードに切り替わるくせに。



鼻に水が入って、ぎりぎりお父さんに助けられて間一髪のときもあった。



波にさらわれて、もう2度と帰ってこられないんじゃないかと思う時だって何度あったか。



心配するくらいなら、私に辛い思いをさせるくらいなら、はじめから誘わないでよ。



断るほうも辛いんだよ。



自分が『カナヅチ』だってことを、余計に思い知らされるから。



どうせ、お父さんやお母さんにはわからないだろうけど。



なんて言ったって、皆が余計に気分を悪くするだけだから言わないでおく。



こうやって、カナヅチからおこるイライラを出せずにいるんだ。



絶対、前世でも私と海の相性は最悪だったと思う。
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