また俺が助けるから。
「なに拗ねてるんだよ」



呆れたお父さんはこちらへ歩いてきた。



1歩踏み出すたびに、暑っ、と聞こえてくるのはまあ置いといて。



水の中にいるから、あがったときに暑いんだよ。



「ほら、この浮き輪使うか?」



そう言ってお父さんが私の後ろにあるバッグから取り出したのは、言ったとおり、浮き輪。



ああ、柄といったら……ダサい中のダサい。



色はピンク。ハートが浮き輪中にちりばめられていて、しかも大きく『I LOVE SEA!』と書かれている。



I LOVE SEA…。



私は海を愛しています?



いやいや、愛してなんかいないから。むしろ、嫌い。



こんな浮き輪を見せられると、わずか1パーセントほどあった私の泳ぎたい気持ちが、
0まで引き下げられる。



私心も、女心もわかっていないお父さんを、今すぐ海に追い返してしまいたい。



もうその浮き輪、毎年見てる。



お父さんなんて、お母さんとキャッキャウフフしてればいいんだ。



どうせ私にそんな相手はいませんよーだ!
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