また俺が助けるから。
「あのさ、もういいから」



あふれ出そうになる海とお父さんへの怒りは心の奥底にしまう。



眉間にしわがよらないように気をつけるも、真夏の太陽がそうはさせるかと対抗してくる。



太陽に負けた私は、どこからどう見ても機嫌の悪い女。



まあ、悪いんだけど。



そんな私を見たお父さんは、しぶしぶ海へ引き返していった。



ああ、泳げる人はいいな。



一番速いって言われるクロールも、見栄えのいいバタフライも、楽そうな平泳ぎだって、いざというときの背泳ぎだって。



波が立つあの水の中を自由に泳げたら、どんなに気持ちいいことだろう。



私には、到底無理。



もがいてばかりで、体力を使って終了。



何のために水の中に入ったの?ってきかれて、泳ぐため、なんて言える動きじゃない。



漫画みたいにアップアップ言ってるし、ひどいときにはガボガボ言ってる。



小学校の時には水泳の授業のレースで皆に散々言われるし、カナヅチでいい事なんかない。



あるなら、誰か教えてほしい。



カナヅチでいい事と、私がカナヅチで生まれてきた意味を。



「はあ……」



本日2度目の私のため息は、憎き波の音と他の観光客の声でかき消された。
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