僕らが大人になる理由
「…あ、停電」
「ぎゃああああ無理無理無理」
「…じゃ、俺はそろそろ帰るんで…」
「やだ帰んないでくだざいいい!」
「はははっ」
あまりに必死な声に思わず笑うと、真冬は怒った。からかわないでくださいって。
…それにしても結構暗いな…。
雷で光った一瞬しか、部屋の様子が見えない。さっき一瞬だけ、お座敷の近くでうずくまってる真冬が見えた。
…よし、だいたいの位置は把握した。
「真冬ちゃん、怖いならお兄さんがそっちいったげよーか?」
「いいです大丈夫ですぎゃああ」
「光る度に奇声あげられちゃあね」
「か、懐中電灯とかないんですかね…」
「あ、そういやお座敷の棚にあったはず…、あ、俺取るから、お前動くなよまじで」
「はい」
俺はカウンターにそってゆっくりとお座敷に移動した。
頭の中で棚の位置をイメージした。
真冬を通り過ぎて、21宅の棚の1番下の段。よし、イケる。そう思っていた。
「きゃーー!!」
「うおっ」
けれど、再び部屋が白い光に包まれた瞬間、真冬が俺の脚にしがみついてきて、二人同時にバランスを崩してしまった。
否、俺が真冬をお座敷に組み敷いたような体勢になってしまった。
「………え」
「ま、また光ったああ」
けれど、真冬はパニックに陥ってるせいで、この状況をあんまり理解していないようだった。
むしろ俺に抱き着いてきた。