僕らが大人になる理由
自分の表情が徐々に緩んでいくのが分かった。
紺さんは、すっと立ち上がって、あたしがもっていたコップを取り上げた。
「でもまだ仕事与えませんから」
「え!?」
「ちゃんと治してください。じゃないとスパルタできませんから」
「っ」
―――どこでもいい。
誰のためでもいい。
あたしも誰かに何かを与えたい。
「はい! 真冬がんばります! もう寝ます!」
「…いや、まだ昼なんですけど…」
「おやすみなさい紺ちゃん!」
「紺ちゃん言うな!」
自分から与えなきゃ、与えられないんだって、それが当たり前なんだって、やっと気づけたから。
「…あ、一応、言っとくけど、店長、あんたの面接引き受けたのは、コネじゃないですから」
「え」
「噛みまくりながら、必死に電話してくれたからだって、言ってました」
「!」
やっと、気づけたから。