僕らが大人になる理由
第3章
積み重ねられた2人の時間
『お前俺のこと好きになれ!』
光流君の言葉の意味を理解するには、そのときのあたしには結構な時間が必要だった。
あたしは紺君が好きで、そのことは光流君も知ってる。
でも光流君は、あたしに自分のことを好きになってほしい。
そう、言った。はっきりと。
それって、一体どういうこと…?
どう考えても、自惚れだと言われてしまうような答えしか浮かばない。
もしくは、紺君を好きでいることを阻止しようとしているかのどっちかだ。
足りない頭で必死にこの状況を理解しようとしていると、光流君が乱暴にあたしの前髪をかき上げた。
「俺は今お前に告ったんだからな」
「こく…」
「それだけ理解すればいい!」
「ごめんなさい!」
「返事はやっ!」
「だって!」
「分かってる! 真冬は紺ちゃんが好きなんだよな! 俺も好きだ!」
…その言葉を聞いたとき、あたしは心から光流君を尊敬した。
あたしだったら、好きな人の好きな人を好きになんてなれない。たとえどんなに良い人でも。あたしは、きっと由梨絵さんを好きになんてなれない。
…光流君は凄い。凄く良い人。
なんでこんなに良い人が、あたしを好きになってくれたのかが分からない。だから現実味が無い。
戸惑って、言葉を失った。嬉しいけど、それを大きく困惑が上回っている。
「…今は紺ちゃんのことしか見れてないかもだけど、今度からは俺もそういう対象として見て欲しい」
「ま、待ってあたしそんな“見て欲しい”なんて、そんな風に言って貰えるような…」
今まで経験したことのない展開に、なんだか具合が悪くなってきた。光流君の、真っ直ぐな視線が刺さる。
「真冬、俺は今“お願い”してるんだ。お願いすら誤魔化されて流されたら、俺はもうどうもできないんだよ」
「……あ」
「分かるでしょ、真冬」
光流君の真っ直ぐな言葉に、自分がどれだけずるい言葉を返してしまったのかということに気付き、自分が恥ずかしくなった。
「ごめん…、じゃない。分かり、ました…」
「うぬ」