僕らが大人になる理由
光流君は、少しだけ笑って頷いた。
今はYESとかNOとか極端な答えじゃなくて、“分かって”くれればいいのだと、彼は言った。今は初期段階だから、と。
「じゃあ俺、帰るわ」
「あっ、終電は?!」
「ギリギリアウトー」
「え!?」
「なに、真冬ん部屋泊まらせてくれんの?」
「例え嵐でも駄目です」
「はは、だよなー。タクるわ。じゃーなー」
「あっ、はい」
あたしは、光流君の笑顔に笑顔を返せないまま、ただ静かに手を振った。
光流君があたしを好きだなんていまだに信じられないけど、
でも、誤魔化したり流したりするには、
あまりに光流君の思いや言葉は誠実過ぎた。
ぼうっとしてはいけないと、分かっているけど、仕事がひと段落つくとすぐに光流君の顔が浮かんでしまう。
どうしよう。
しかも運が悪いことに、今日に限って夜からオフ。
部屋で一人でいたら頭がおかしくなってしまいそうだったので、あたしはとくに行き先も決めずに駅に向かった。
そっと裏口から出て、秋の夜風を肌に感じた。
季節は移ろいで、もう秋本番。
10月の風は、急に冷たくなる。
「どうしよう…」
どうしよう、あたし。
あの真っ直ぐな言葉に、どう返したら誠実でいられるのだろうか。
あたしは、そんなことをぐるぐると考えながら、うつむいて歩いていた。
すると、
「真冬さん…?」