僕らが大人になる理由
もしかして
「真冬」
冷たい何かが頬に触れているのを感じた。
「真冬」
なんだろう。
サラサラしてて、冷たくて、気持ちいい。
もっと頬に触れてほしい。
あたしは、それを掴んで自分の頬を摺り寄せた。
その瞬間、頬に痛みが走った。
「起きて下さい。朝です。あと手を離してください」
「い、いひゃひゃ。は、離します離しますだから抓らないでくだひゃいいい」
目を開けた瞬間、目の前に紺野さんがいた。
ラグランに、下はまだスウェット姿。寝癖も立ってる。恐らく紺野さんも起きたばっかりなんだろう。
え、でも一体なぜあたしの部屋に…?
昨日、夜中に一回起きて、ちゃんと戸締りをしたはずなのに。
「鍵の管理、俺がやってるんで」
「え!?」
「雑用があったらいつでもたたき起こすから。よろしくお願いします」
「は、はあ…」
まじすか。
そ、そんなものなのかな? 住み込みって…。
あたしは、掛け布団をどかして、紺野さんのもとに駆け寄った。
紺野さんは、あの洋風なテーブルの上で、何かを紙に書いていた。
「起床時間、この店の約束事を書いておきます。シフト表は今日渡します」
「あ。はい!」
「開店時間は11時からだけど、それまでの時間に、俺は真冬の世話係ってことになってますから、俺に従ってください」
「……」
「真冬、返事は」
「うあ、はい!」
「まだ面倒くさい仕事は押し付けないので安心してください」