僕らが大人になる理由

「…紺ちゃん、また携帯なってるよ」

「そうですか」

「……真冬からだよ」

「え」


俺は濡れた手のまま携帯を掴み表示画面を見た。


「…なんつってー」


しかしそこに表示されていたのは単なるダイレクトメールだった。

カウンターの向こうには、いじわるそうに笑ってる光流がいる。


『言っとくけど、冗談じゃないからな!』


…あの雷の日に受けた宣戦布告を、ふと思い出した。

光流が本気なのは、十分わかった。でもなぜそんなに俺を敵視しているのかが分からない。

俺には由梨絵がいるのに。


「……光流、俺は真冬をふりましたよ」


一瞬、光流の動きが止まった。


「だからもう、俺は何も関係ないです。何も俺に対して警戒することはありません」

「…なんて言ってふったの?」

「真冬とは付き合えないです、って言いました」

「…は? なにそれ」

「……なんですか」

「付き合えないって、なにそれ。ふってないよそれ。本当に好きじゃないなら、そんな言葉普通でてこないよ。今のその言い方じゃ、事情があって付き合えないように聞こえるよ。まるでその事情は、由梨絵ちゃんを好きだからじゃなくて、由梨絵ちゃんの存在自体を言ってるみたいだ」

「…何が言いたいんですか」

「………言っていいの?」

「…………」

「言わねーよ、言うわけないじゃん。ふざけんなよ。なんだよそれ、自分でうすうす分かってること、なんで俺がわざわざお前に教えてあげなきゃなんねーんだよ」


…また、額にうっすらと汗が浮かんだ。

顔は恐ろしく無表情なのに、心の中では余裕が無い。

光流の乱れた心拍数が、なんだか直に伝わってきて、頭の中をぐちゃぐちゃにされている気分になった。


…少し、待ってくれ。落ち着きたい。一度。


真冬と由梨絵の名前が飛び交うたびに、鼓動は乱れた。
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