僕らが大人になる理由
まさか下の名前で呼んでもらえるとは。
中高どっちも女子高だったから、同い年の男子に呼び捨てで呼んでもらえることはかなり新鮮だった。
なんだかドキドキしてしまう。
そうだ。紺野さんは大人っぽいけど、あたしと同い年なんだよな。
さっき頬を摺り寄せてしまった紺野さんの手は、骨ばってて、大きくて、すらっと長くて、ピアニストみたい。
あ、髪の毛、襟足だけ外ハネしてる。
ていうかピアス、あんなにあけて痛くないのかな。
すごく細いのに、肩幅はしっかりあって、肩甲骨が綺麗に浮き出てる。
高校生男子って、こんなに大人っぽいんだ。
長めの前髪からちらっとのぞく泣きぼくろを見つめていると、紺野さんがぎっとこっちを睨んだ。
「なんですか。顔になんかついてますか」
「あ、いや、泣きぼくろがセクシーだなって…」
「は?」
「ひいいいすみませんんん」
「くだらないこと言ってないでメニューの5つや6つ覚えたらどうですか?」
「そうですねそうします」
「バカ」
もしかしたら紺野さん、朝ものすごく苦手なんじゃないかな。だってまだ眠たそうだ。
それなのにあたしの世話係なんて引き受けてくれたのかな。
そういえば、昨日だって冷たかったのに、でも結局は優しくて、遠回しに励ましてくれた。
その時、胸がきゅっと苦しくなった。
え、やだ。なんだこれ。苦しい。
「い、痛い…っ」
「は!? なに、どうし…」
「お腹すきすぎて、お腹痛い…」
「………」