僕らが大人になる理由
「由梨絵は………養子なんだ…」
「え……」
「俺を預かってくれた由梨絵の両親は、本当の親じゃないって伝えるタイミングを、俺を預かったせいで逃してしまったらしい」
俺は、ずっと閉ざしていた過去を、ぽつぽつと、まるでロボットみたいに、読み上げた。
由梨絵と由梨絵の両親は血が繋がっていないということを知ってしまったのは、養親だと知ってしまったのは、本当に偶然だった。偶然、深夜に起きてしまって、偶然由梨絵の両親の話声を聞いてしまったから。
「由梨絵の父も母も、何歳になったらいおうか…凄く迷ってた。でも俺が来て、実はあなたも血の繋がりはないのよ、なんて言えるわけが無かった。俺が由梨絵の人生を大きく変えてしまった」
「………」
「由梨絵は、最初俺が来たとき、両親の愛が俺にいってしまうのではないか、と凄く不安がってた。見ていて辛くなるくらい、由梨絵は必死に両親を愛情を独占したがってた。それは学校でも一緒で、由梨絵は人一倍皆に好かれようとした。いつも笑ってた。でも」
「でも…?」
「……頑張り過ぎて、爆発したんだ。ある日、わたしを愛してよって、叫んで、俺に物を投げつけてきた。皆わたしのことを好きになってよって、愛してよって、泣きながら叫んでた…」
「っ」
「あんたが来たせいで、あんたがわたしより注目されるせいで、誰もわたしを見てくれないって…何度も俺を叩いた」
…今でも、覚えている。
当時、俺は確かに由梨絵より頭がよくて、運動もできた。
そのことが、幼い由梨絵にはとんでもなくコンプレックスだったらしい。
…よそ者が自分より褒められる機会が多かったら、気にくわないのは当然だ。そのことは幼いながら俺も十分分かっていたから、なるべく静かに行動していたいたつもりだったけど、由梨絵のそのコンプレックスは想像を超えていた。
由梨絵は、想像以上に苦しんでいた。