僕らが大人になる理由
歩んでいけますように
店長とあゆ姉にだけ帰省することを伝えて、あたしは半年以上ぶりに実家に帰ってきた。
「真冬さん、おかえりなさい。本当に出てったっきり中々帰ってこないから、心配していたんですよ」
「心配かけてごめんなさい、ただいま」
「寒かったでしょう、はやくお入りになってください」
大きな門をくぐって、帰ってすぐ出迎えてくれたのは、小さい頃から良くしてくれてる家政婦の内山さんだ。
ゴミひとつない玄関でブーツを脱いで家に上がった。
木造アパートとは全く違う広さのリビング。
母が買ったイタリア製の高級ソファーに座ると、内山さんがさっと温かい紅茶を出してくれた。
「どうでした? あちらでの暮らしは?」
「うん、店長も先輩もみんなすごくいい人で…凄く良い所だよ」
「そうですか。もう今後はこちらにお戻りになられるのですか?」
「うん…とりあえず夏採用に向けて、近々戻るつもり」
「そうですか。きっと奥様も喜ばれますよ」
「そうかな…。まあ元々一年したら戻ってくるっていう約束だったからね。このクッキー美味しいね」
「まだまだありますよ。あ、メゾン・デュ・ショコラのエクレアもあるんですよ。今朝奥様が…」
「夕飯前にそんなに食べれないよー」
あたしが笑うと、内山さんはつい嬉しくて、と言って笑った。
高級な家具、最新の家電、母の趣味のアロマの香り…。
アパートには無かったものが沢山ある。
たった半年帰ってこなかっただけで、あたしは改めてすごい環境で育ったんだと実感した。