僕らが大人になる理由
「真冬、君がこの先一生勤めるのは、紺野君が一生恨むであろう会社なんだ」
「おい……やめろって、言ってんだろ……」
「本人が気づくのも時間の問題だ。気づく前に離れた方が良い。そう思って手配したんだ。妹思いだろう? 俺は。今ここで同じバイト仲間にも辞める理由を直接説明できたしな。俺が招いたおかげで」
「ふざけんな!!!」
―――その瞬間、一気に頭に血がのぼって、兄を壁に勢いよく追い詰めた。
それでも兄は、真冬の心への攻撃をやめなかった。むしろ勢いを増した。
「気にくわないんだよ!! 結局一番楽しやがって! いつも守られやがって! こっちはどんだけ1人でプレッシャーに耐えて生きてきたと思ってんだ!! 真冬!!」
「自分だけが大変だと思うな! 真冬の気持ちも知らねえくせに!」
「挙句の果てにバイト先でさえ自分を守ってくれる人を見つけて、3か月間はその大切な人達と過ごします? ふざけんな、させるかよ! 絶対そんなことさせるかよ!!」
「おい!!」
「お前みたいな落ちこぼれが、幸せになること自体気にくわねえんだよ!!」
――――真冬。
真冬、大丈夫だ。コイツのことは聞くな。何も信じるな。
たとえこいつの言ってることが真実でも、紺ちゃんはそんなことで真冬を恨んだりしない。絶対にしない。
紺ちゃんは、過去と今を、割り切って考えれるいいやつなんだ。本当にできた奴なんだ。
だから真冬、お前が傷つく必要は、どこにもないんだよ。
そう思いながら、俺は兄の胸ぐらを離して、うずくまっている真冬に近づいた。
「真冬…?」