僕らが大人になる理由
まさか。
あの話を、真冬にしたのか…?
由梨絵にその情報を提供したのは、真冬の兄だったのか…?
だとしたら一体どんな繋がりで。
違う、問題はそこじゃない。真冬は? 真冬はどんな反応をしたんだ?
「由梨絵ちゃんが大学の文化祭に行ったとき偶然聡人と知り合ったんだって…本当に、事前に知って会ったんじゃなくて、まずお互いの連れ同士が仲良くなって、それからだんだんと話していくうちに真冬の兄だって知ったらしくて…」
「………」
「すごいよね。俺らの大学の文化祭、めちゃくちゃ規模大きいのに。何千人の中から、そんな風に出会うなんて」
「……真冬は……」
「知るべきことだったのかな…これは…」
光流はまた俯いて、ガンッと勢いよく真冬の部屋のドアを叩いた。
「知らなくていいことだった…!! 確実に!!」
光流の声が、雨音をかき消した。
そんな光流の表情を見て、俺はじわじわとことの重大さに気づいてきた。
今までふわふわしていた嫌な予感が、凝縮されて全身を襲ってきた。
「世の中には、知らなくていい過去が、沢山あると思うっ…」
「………」
「真実がいつも人を救ってくれる訳じゃないっ、むしろ人を傷つけることの方が多いっ…」
「………」
「人はそんなに、強くない……っ」
「………ふゆは」
「…真冬の心は、死んだ……。過去に、殺された……」
「………」
「紺ちゃんが、恨むわけないって、たとえどんなに説得しても、もう何も聞けない瞳だった。あの真冬は」
「………」
「自分の生きてきた19年間という時を、過去を、今真冬は、全て末梢したいとすら思ってる…」
「………」
「そういう、目だった。あの瞳は」