僕らが大人になる理由

…“過去”っていうのは、変えられないし、無くならない。

良い過去もあれば、悪い過去もある。

時折ぎゅっと胸を掴むほど、思い出したくないのに思い出してしまう過去もある。

自分が知らなかった過去もある。

知らなくて良かった過去もある。


そんな過去たちに縛られたくないと感じたとき、すでに過去に縛られている。


…もう、解けないのか。一生。これは…。

俺にはずっとその過去が纏わりついて、大切な今を取りこぼしてしまうことが、この先もあるのか。


じゃあ真冬、俺は、生まれて間もないころに起きたことを、一生恨んで、生きていけって、言うのか…?

真冬が離れていく理由が俺の過去そのものなら、俺は、一生過去を恨まなくてはならなくなる。

真冬を思い出すたびに、過去を恨めって、言うのか…?



「なんですか…それ…勝手に傷ついて…勝手に離れて…俺は、どうすればいいんですか…」

「………」

「勝手すぎて、涙も出ないです…」

そう言うと、光流は重たそうに口を開けて、

「……お前みたいな落ちこぼれが、幸せになること自体気にくわねえんだよって、言われたんだよ、真冬。実の兄に」

そう、訴えたんだ。

「なあ、お前だったら、どうする? 幸せになるなって、面と向かって言われたら、人ってどうなる? なんて声かけてあげたら良かった…? こんなことって、あるかよ、真冬が何したってんだよ、なんの権限があって、アイツは…あんなこと言えたんだ!!」

光流が、俺の胸ぐらを掴んだ。

目には、涙を沢山浮かべていた。

ショックで、一瞬呼吸をすることを、忘れた。

そんなことを、言われたのか、真冬は。

俺は、光流の手に手を重ねて、人の声とも認識できないくらい低く冷たい声を出した。



「絶対許さねぇ…」



そう言うと、光流はゆっくり俺から離れた。

「…いないんだよ…」

「……」

「紺ちゃんしか、いないんだよ…。今の真冬を救えるのは」

「……光流…」

「正直俺は、それが、めちゃくちゃ悔しいよっ……!!」

「光流」

「本当はっ、お前なんかに頼みたくねぇよ、超悔しいよっ!! でも、俺の声は一切届かなかったんだ…ひとことも、届かなかったんだ…!!」

「光流」

「正直俺はお前が羨ましくて憎くて仕方ないよ!! ずっと前から!!」

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