僕らが大人になる理由
大声を上げる光流に、俺は深々と頭を下げた。
光流の呼吸が、乱れていた。
雨音が、やけに近くに感じた。
手が、声が、震えていた。
人生でこんなにも、人と真剣に向き合ったことはない。
「真冬の居場所を、教えてください」
「……」
「俺に、行かせてください。お願いします」
「……なんなんだよ…」
「約束します。絶対、真冬を連れ戻します」
「………」
「…信じて…欲しい…っ」
「………っ」
――――信じて欲しいだなんて、生まれて初めて思った。
誰かを心の底から助けに行きたいなんて、生まれて初めて思った。
誰かのために、こんなに自分の心をぶつける日が来るなんて、思ってもみなかった。
―――真冬、心配だよ。
1人で泣いてない?
ちゃんと食べてる?
しっかり寝れてる?
気にすんなよ。あんなクソ兄貴の言うことなんか。
真冬が傷つく必要なんてどこにもないんだから。
…いてやりたかった。俺がその時そこに、いてやりたかった。
そこにいて、クソ兄貴なんか殴り飛ばしてやりたかった。
それから、何度だって、真っ直ぐ真冬を見つめて、言ってやりたかった。
俺は真冬の幸せを、一番に願ってるよ、と。
たとえ、真冬の瞳が死んでしまっていても。
俺の言葉は届かなくても。拒絶されても。
何度だって、言ってやりたかった。
どれだけ声が、枯れても。声にならなくなっても。
「紺ちゃん…」
光流が、俺の肩をそっと掴んだ。
光流の声もまた、震えていた。
「紺ちゃんのこと、信じてるよ」
光流の言葉を聞いて、俺の決意はより一層強まったんだ。