僕らが大人になる理由
君と一緒に
「ごめんね、急に手伝ってもらっちゃって」
「いいえ」
「今日だけって約束だけど、ずっとこっちで手伝って欲しいなあ~。せめてプレオープンだけでも!」
「ちょっと兄貴~、俺の大事な人材奪わないで~」
清水店長のお兄さんが、九州でレストランをオープンさせることになり、急遽手伝いにきた。
お兄さんはとても細くて、身長が高く、体型は店長とはあまり似ていなかった。
塗装や装飾から力仕事まで1日で働いた俺は、さすがにくたくただった。
「柊人君、ありがとうね助かった。もうホテルで休んでていいよ」
「いいえ、まだできます」
「柊人君は細い割に力持ちだね~、本当に助かったよ。お陰で思ってた2倍速く仕事が終わった。だからもう十分だよありがとう」
「そうですか…」
「あとは俺と弟で片付けるから」
「ありがとうございます…」
申し訳ないと思いながらも、これから兄弟同士深い話があるのだろうと思い帰ることにした。
店長とお兄さんに頭を下げて、俺は未完成のレストランをあとにした。
紺のダッフルコートを羽織って、黒のマフラーを口元まで巻いた。
吐く息は白く、東京とは違う景色に少し胸が躍った。
今日はバタバタしてどこもまわれなかったけど、明日は飛行機の時間までどこかぶらぶらしよう。
そんなことを思いながら、あまり車の通らない歩道を歩いた。
…そう言えば、駅でイルミネーションが綺麗だったな。
今日はクリスマスということを、こっちに来て思い出した。
駅は通り道だから、またあの光を見て帰れる。
そうだ。真冬に渡したあのオルゴールも、クリスマスプレゼントとして良いタイミングだったかもしれない。
…なんて思いながら、はあ、と白い息を吐いた。
真冬の心の閉ざし方は、想像以上だった。
どこかで、俺が会いに行けば解決するんじゃないかと思っていた。
だけど、そんな期待は脆くも崩れ去った。