僕らが大人になる理由
僕らが大人になる理由
「そんでね、この間雑誌で“イケメンシェフのいるお店”の特集組まれてから、うじゃうじゃ女の子が来るようになってね?」
「真冬ん…」
「バイトの募集も女の子しか来ないの! しかもかわいい子ばっかり!!」
「あのね、これ俺の取材なんじゃ…」
「はっ、そうだった!」
「俺はなぜ真冬の痴話喧嘩話を聞かなきゃならんのだ…」
とある都内のカフェで、あたしは光流君に最近の愚痴を思い切りこぼしてしまった。…本来の目的を忘れて。
夜は和食レストランになるお店で、あたしは光流君とアイスコーヒーを飲んでいた。
季節はうつろぎ、本格的に寒くなってきた12月。
…入社して約2年が経った。
光流君は、大学4年生になり、大手外資系の会社に内定が決まり、暇つぶしで参加した大学のミスターコンで優勝をした。
光流君の大学は全国的に有名なので、瞬く間に光流君の名は知られ、雑誌のインタビューやインターネットでの放送はもちろん、最近は読モとして活動していて、テレビにもちらほら出るようになってしまった。
今日はそんな忙しい光流君をやっと捕まえてのインタビューだ。
あたしが今所属しているのは、20代女性向けのファッション誌で、そこにこのインタビューが載る。
知り合いだからという理由で抜擢されただけだけど、あたしにとって初めてのインタビューだ。
あたしは、バッグからインタビューに必要なものを出して、改めて光流君に色々質問をした。
「最近嬉しかったこととかあります?」
「あ、そういえばこの間あのリナト君と撮影一緒になってさー、めっちゃ鳥肌立ったわー、イケメン過ぎて」
「えええ、いいなあ!!」
「めっちゃ性格悪かったけど、イケメンだからねーで済まされるあの感じ、興奮したよね」
「……そこはカットしときますね」
「えー」
…光流君は、この2年間でとても大人っぽくなった。
髪は黒くなったままだけど、就活時は短かった髪は今は大分伸びて、前髪は横に流している。
彼曰く全体じゃなくポイントでパーマをかけて柔らかく立体感のある髪型にして貰ったとかなんとか。
賞を受賞してから美容院はタダだし色んなサンプルも貰えるし本当最高、だそうだ。
就活前に清水食堂は辞めてしまったそうだけど、今はあゆ姉がホールリーダーとして活躍しているそうだ。