僕らが大人になる理由
だ、誰か止めて、という願いを込めてあゆ姉や光流君を見たけれど、二人とも平然と仕事を続けていた。
え、どういうこと?
こういうことって、日常茶飯事なんですか?
一人で困惑していると、常連客らしき人の声がひっそり耳に入った。
「紺野君はほんとに煽るのが上手いなあ。昨日だって酔っ払い客の喧嘩止めるつもりが火に油注いじゃったみたいだし」
「野次馬も大盛り上がりでよお。ま、それがこの店の面白い所でもあるけどなあ」
「あっはっは。さすがロボット店員と言われるだけあるなあ」
いやいやいやいや。あっはっはっはじゃなくて。ロボット店員て。
もしかして昨日お酒をかぶっていたのも、こういうことが原因なの…?
とにかく、この騒動を止めなくては!
「ちょ、こ、紺野さん!」
「なんですか」
「まずいですよっ。すぐに謝ってくだ…」
「あーもう、最悪! こんな所二度と来るか!」
や、やっぱり…。
4人はかなり不機嫌な表情で立ち上がり、荒々しく店を出ていった。
バシンっと閉まったドアに向かって、紺野さんはのんきにも『ありがとございました』と言っていた。
どうしよう。
初っ端からあたしのせいで、売り上げを落としてしまった。
「ど、どどどうしましょう、折角のお客さんが、もうあの人たちここに来てくれないですよね…!?」
「ああ。でしょうね」
「いやあああああ」
「いいよ。来なくて」
「へ」
「だってムカつくじゃん。さっきみたいなの。普通に」
そういって、紺野さんはキッチンへと戻って行ってしまった。
取り残されたあたしは、紺野さんの言葉をひたすら脳内で反芻していた。
――『だってムカつくじゃん』。
それは、こんな店、と言われたことに対してなのか、それとも、あたしが言われたことに対してなのか。
どっちにしろ、あたしを助けてくれたことに変わりはない。