僕らが大人になる理由
あ、どうしよう。まただ。
胸がきゅっと苦しくなった。
やだ。なんだこれ。苦しい。苦しいよ。
「姉ちゃん、大丈夫かい? さっきみたいなのはもう気にするんじゃないよ」
胸を押さえて苦しんでいると、一人のお客さんが声をかけてくれた。
あまりの優しさに、また胸が苦しくなった。
「あ、ごめんなさい。お騒がせしちゃって…」
「いいんだよ。ここは元々常連客がほとんどだしね。紺野君がほんとは良い子だってことも、皆分かってるから」
「っ」
「…ところで、さっきから顔が赤いけど、大丈夫かい?」
「え、…え!?」
すると、なにかを察したのか、お客さんは少し声を小さくして囁いた。
「あー、もしかして紺野君に惚れちゃったかい?」
「えええええ!?」
そんな。
これが俗にいう恋というものなのか…!?
あたしは熱くなった頬をおさえながら、もう一度キッチンにいる紺野さんを見てみた。
偶然目があって、口パクで『はたらけ』と言われた。
それだけなのに、心臓は破裂しそうなほど激しく鼓動をうっていた。
―――桜野真冬18歳。特技トランプの神経衰弱、資格漢検1級。血液型0型。
女子しかいない学校に通うこと6年。
生まれて初めて、恋をしちゃいました。