僕らが大人になる理由
“アイツ彼女いるよ”。
光流くんのその一言が、ずどんと胸に突き刺さった。
ショックっていうか、目の前のキラキラを一瞬で奪われた感じ。
そ、そうか…。恋って、必ず自分が主役なわけじゃないんだ…。
「彼女いるのに、こ、紺野さんあんなに思わせぶりな態度するなんて…ひどい…」
「ごめんあのロボットの態度を思わせぶりだと思えるお前がすごい」
失恋しました。どうしよう。…どうしよう!?
初恋は実らないって言うけど、まさか48時間以内にすべてが終わってしまうとは。
え、まじなのか。まじなのかこれ!?
何から何まで急すぎて、事態が呑み込めない。
「まあ、よかったじゃん。傷が浅いうちで。だって今お前泣くほどショック受けてないでしょ?」
「確かに」
「なっ? はい、じゃあ、どんどん次行こうー。あ、アド教えてよ。誰か紹介したるよ」
「あ、はい」
「はいっ、赤外線ー。桜野真冬。フォルダはBカップ、登録完了っと」
「あ、はい」
今勝手に何かすごく失礼な仕分けをされた気がしたが、放心状態のあたしには何も届いていなかった。
飲み干したマグの底を見つめながら、茫然自失していた。
どうしてだろう。ほんの数分前まで、紺野さんのことを思うだけで胸が苦しくなったり、切なくなったりしていたのに。
急に現実に引き戻されて、さっきまでのキラキラした感情が、嘘みたいに灰色になっていく。
恋って、こんなにあっ気ないものなのか。
もしかして、一時の気の迷いだったのかな。
いや、ていうかもう、あの感情幻だったのかな。ていうかもう紺野さん自体幻なんじゃないかな。
気づくと休憩時間はあと3分。
光流君は完全に違う世界にいってしまったあたしの腕を引っ張って、階段を下りて行った。