僕らが大人になる理由
あたしは、壁に頬を寄せて、暫く考えこんだ。
それから、意を決して、再び電話をかけた。
「………なんですか」
「あのっ、あたし、紺野さんのこと好きになっちゃいました!」
「………え」
「というわけで、明日から紺君と呼ばせて頂きます!」
「え、いや、全然意味わかんな…」
「おやすみなさい!」
言い終わった瞬間、カアーッと顔に熱が集まっていくのを感じた。
言ってやった。
言ってやったぞ、あたし。
心臓、バクバクいってる。
あたし、きっと今ものすごいことをした。
たぶんこの勢いで2キロくらい走れちゃう。いや、盛った。やっぱり1キロ。
でも、そのくらい体が沸騰してる。
だって、そうだよ。
彼女がいるからって、冷めてる場合じゃないんだよ。
好きでいることは、自由なはずなんだから。
あたしは、自分にそう言い聞かせて、布団の中に勢いよくもぐった。
壁を挟んだ向こう側。
紺君の無表情な顔が少し崩れたところを想像して、眠りについた。