僕らが大人になる理由
本当の自分
『お前って本当に大人だな』
『何か欲しいって思ったことあんの?』
中学時代、クラスメイトの男子に、何度となく言われたこの言葉。
0歳から10歳まで養護施設で育った俺は、何かをねだるということをあまりしなかったし、そういう行為をすること自体にかなり抵抗があった。
結果、あれが欲しい、これが欲しい、という感情が俺の中からどんどん薄れていき、終いにはロボット紺野を略して『ロボ紺』と言われる始末であった。
感情が無いわけじゃない。
ただ、怒ったり笑ったりする回数が人より少ないだけ。
「真冬、違う! もっと上目遣いで、色っぽく!」
「う、上目遣い…?」
「そう、それで、“二番目でも…いいよ”って言え。涙目で」
「えええ!? 二番目じゃいやだよ!」
「バッカ純粋ぶんな。もういいよ、お前もういっそ限界まで胸だしちゃえよ。さすがにあのロボットだって性欲くらいあるはず」
「いやあああもう最低最低最低最低!」
「お前な、紺ちゃんに夢見過ぎ! あいつだって絶対エロビ観たことあるかんな!」
俺の存在に気付かないでベラベラ話してる光流の背後にひっそり立った。
最初に気付いたのは真冬で、真冬の表情を見て光流がゆっくり俺の方に振り返った。
二人して顔面蒼白だ。
そんなバカ二人に、俺は冷たく言い放った。
「休憩、交代です」
「は、はーい…」
顔を青くしたまま、二人が立ち上がり、気まずそうに休憩室から出ていった。
俺は冷たい瞳のまま、彼らが食堂に向かう様子を見つめていた。
それから、休憩室を出て、自分の部屋に戻った。
彼女が選んだデジタル時計を、20分後にセットして、布団にもぐった。