僕らが大人になる理由
「あたしはいっぱい見つけちゃったから」
「……」
「あ、でもでも、料理作ってるときの紺君が一番好きです! イケメてます!」
「…イケメ…?」
「作ってるとき、楽しそうですよね。子どもみたいに無邪気で」
「え」
「美味しい、ってお客さんが言ったとき、微妙に右の口角上がりますよね」
「………」
「あ、今引いてます!? うわああ言わなきゃよかった盗み見し過ぎってバレたーっ」
―――子どもみたいに無邪気で。
そんなこと、生まれて初めて言われた。
何を食べても、何をしても、周りを不安にさせていた自分。
俺は決して大人じゃない。
…でも、はやく大人にならなくては、とずっと思って生きてきた。
はやく大人にならざるをえない状況だったから。
養護施設でも、由梨絵の家でも、自立という言葉が常にまとわりついていた。
誰よりも冷静に、
誰よりも沈着に、
そうしないと、誰かに迷惑をかける、という漠然とした思いがいつもあった。
だから決して、子供っぽい所は見せてはいけないと、恥ずかしいことだと、思ってきた。
だって、いつだって自分を評価してくれる人は、俺の『大人』っぽいところを好いてくれたから。
「違いますよあたし決して料理作ってるときの紺君の腕筋とか首筋とか腰とか指とか見てませんからああ」
「真冬、分かりましたから。落ち着いて」
「ごめんなさい本当は見てます」
「…見てたんですか…」
「だって…紺君がフェロモンまき散らすから…むしろ被害者はあたしですよ!」
「言ってること無茶苦茶ですよっ」