僕らが大人になる理由
まずい。
真冬と話しているとつい感情的になってしまう。
そういえば、同年代の人とこんなに話すのは中学以来初めてだ。
ましてや女子とは全く話さなかった自分だから、今更この状況が不思議に思えてしかなかった。
「…もう、寝ます。真冬と話してたら疲れました」
「それほどでも…」
「褒めてません」
「あ、待って下さい、今度、クロックムッシュの作り方教えてほしいんですがっ。下心80%で」
「……0%ならよし」
「すみません頑張ります滝行してきます」
「ふ」
あ、今笑いました? と、真冬があまりに嬉しそうに言うから、慌てて素っ気ない自分に戻って、笑ってません、と言い放った。
真冬がしつこく聞いてくるから、その度に笑ってませんと答えて、最終的に真冬を追い払って自分の部屋の中に逃げた。
「ほんとう無茶苦茶…」
今どきの女子って、あんなテンションなんだろうか。若いってすごいな…。
そう感心しながら、シャワーを浴びる準備をした。
誰よりも冷静に、
誰よりも沈着に、
そんな風に気を張らなくてもいいと、言ってくれる人間もいるのか。
変わった人だ。彼女は。
「っ」
と、その時、スウェットを引っ張り出していると、ポケットに入っていた携帯が震えた。
着信は、由梨絵だった。
俺はすぐに通話ボタンを押して、電話に出た。
「もしもし」
その瞬間、俺は、大人な自分に、戻った。
どっちでいる自分が正しいのかなんて、その時の俺は、考えることすら、しなかった。