僕らが大人になる理由
優しい君
『あのっ、あたし、紺野さんのこと好きになっちゃいました!』
我ながら大胆な行動だったと思う。
あの告白から約1カ月。
大忙しだったお花見や歓迎会のシーズンもすぎ、少しずつ落ち着きを取り戻した頃。
あたしは隙あらば紺君と話そうと努力したが、おなじみの機械的な返事で跳ね返されるばかりだった。
光流君の参考にならないアドバイスを聞いたり、あゆ姉から借りた少女漫画を読んだり、ノンノ買ってみたり、いろいろ努力はしてみた。
けれど、紺君は全くあたしに関心を持ってくれない。彼女一筋。まあ、当たり前ですよね。
…もうやめようかな。もう大人しくお見合い結婚しようかな…。
なんて落ち込み始めた頃。
「真冬の歓迎会もかねて、明日皆で花見しようっ」
光流君が、初めて素敵な提案をしてくれた。
休日の開店前。
店長、紺君、あゆ姉、全員がそろっている中、光流君がハイテンションでデジカメの画面を見せてきた。
「ほら、見て。もう全盛期は過ぎたけど、まだ咲いてる桜あるんだ。これ、団地の裏の公園なんだけど、綺麗じゃないっすか?!」
「いいねー、俺もそろそろ真冬ちゃんの歓迎会やりたいなって思ってたんだ。まだギリギリ5月に入ってないしね」
「まあ、綺麗ですね…」
店長とあゆ姉が光流君のデジカメを覗いて盛り上がり始めた。
歓迎会。
なんと良い響き。
まさかそんなものをあたし主役で催してもらえるとは思ってもみなかった。
半ば強引に入ってしまったし、何よりまだテキパキと仕事をこなせていないのに。
なんだか、みんなの優しさに胸がいっぱいになってしまった。
何よりプライベートで皆と会えるなんて。絶対楽しいに決まってる。
お嬢様学校に通っていたせいで、こんな風に夜に宴会をするなんてこと、一度も経験したことがなかった。
今日の仕事は、すっごく頑張れそう。
「…俺、行けません」
と、思ったのに、この一言のせいで、一気にテンションがガタ落ちした。